3人称で2人称の目的格代名詞に対して疑問文の形で使用される " ¿Se te ha comido la lengua el gato? " は直訳すると「猫に舌を取られたの?」ですが、意味は「どうして喋らないの?」となります。通常大人が子供を相手に使用するので、日本語で言えば「どーしてしゃべんないのぉー?」てな感じのニュアンスでしょうか。スペインでは、子供が恥ずかしがって何も喋らない時や、怒られて何も答えない時にお母さんや学校の先生がよく使うフレーズです。
この映画では登場人物が何歳に設定されているのか分かりませんが、映画公開当時リディア役の女優エレイン・キャシディは実際21歳、グレース役の女優二コールキッドマンは実際33歳でした。グレースにとってリディアは見るからに年下です。おまけに何も話さないリディアの態度が子供っぽく映ったのでしょう。グレースはちょっと皮肉も込めてこのフレーズをリディアに使ったのです。もちろん、グレースは自分より明らかに年上のタトゥルやミルズにはこのフレーズは使わないでしょう。
もしあなたがスペイン人から " ¿Se te ha comido la lengua el gato? " と言われたら、相手は自分の事を子供扱いしていることになりますが、その相手や言い方次第で愛情を感じたり、落ち込んだりしますよね。私がこのフレーズを使うとしたら、@冗談で言う時、A皮肉を込めて言う時です。@の場合、言われた相手は“子供扱いされた”と嫌な気になる人もいるので、私だったら十分信頼関係のある友人や彼氏に使います。Aの場合は、わざと相手を子供扱いするわけですから、ある程度覚悟して使うでしょう。
私も昔大学の先生からこのフレーズを言われたことがあります。それはスペインの大学の授業で日本語を習っていた時の事でした。うまく日本語が喋れずモゴモゴと発言していたら、皆の前で " ¿Se te ha comido la lengua el gato? " と言われて恥ずかしい思いをした事があります。先生は私よりはるかに年上でしたが、その言い方が皮肉っぽくて嫌な気になりました。日本人の皆さんもスペイン人を相手にこのフレーズを使うときは、相手や状況をよく考えた方が良いでしょう。
さて“猫”に関する言葉で日本人によく質問されるのが、「『猫舌』をスペイン語で何と言いますか?」です。しかし、私は日本に来るまで“猫は熱い物が食べられない”という事を知りませんでした。そもそもスペインに“猫舌”という言葉はありません。日本人はラーメンのスープや味噌汁を熱いまま飲む習慣があるので、“猫舌”という言葉が生まれたのだと思いますが、スペイン人は熱い食べ物はできるだけ冷まして食べるので、自分達が猫舌かどうかすら知らない人が多いと思います。裏を返せば、熱いものを食べたことのないスペイン人は全員猫舌かも知れませんね。そこで、“猫舌”(熱いものが食べられない)をスペイン語で言うとしたら、" No puedo comer comida muy caliente " や " No puedo tomar alimentos muy calientes " が挙げられます。ただ、これでは少し説明が長すぎるので私だったら、“猫舌”とは言わずに、“ある食べ物が熱すぎる”という表現をします。例えば、“このスープは熱すぎる”と言いたい時は、" La sopa está muy caliente " や " me quema la sopa " を使います。日本人の皆さん、スペインでは決して " tengo la lengua de gato " (私は猫の舌を持っています)とは言わないので、くれぐれもご注意を!
●執筆:イサベル・バロソ (バルセロナ大学言語学専攻卒) |