スペインとスペイン語との出会いについて教えて下さい。
1989年に2度目のヨーロッパ旅行で初めてスペインに来ました。何か今まで旅行した国とは違う親しみのある空気を感じ、日本に帰ってからスペイン語を習い始めました。始めたのは40歳を過ぎてからです。記憶力の減退は想像以上のものがありました。その後、1994年に人生の大きな転機があり、どうせなら大きく変わってみようとスペイン中年留学を決めました。とは言っても気の小さい私の事。費用が足りなくなった時のことを考えて、日本人にしかできない仕事として日本語教師の勉強をしてスペインに行きました。
最初は、どこに住みましたか?
初めは語学学校のピソ(マンション)にいましたが、若い人達とは生活の時間帯が違って疲れたので、辞書を片手に貸しピソを探しました。運良く“安くて海のそば”という好都合のところが見つかり、なんと現在まで10年も住んでいます。
スペインに住み始めた当時、不自由なくスペイン語が話せましたか?
初めの年は日本語を教えるどころか自分のスペイン語もおぼつかなかったので、これではいけないと1日6時間位勉強しました。努力の割りには、あまり成果は上がりませんでしたが・・・。
学生ビザと労働ビザの取得について教えて下さい。
当時通っていた語学学校では学生ビザが更新できなかったので、一度日本に帰り、ビザの取れるマラガ大学外国人コースに入り直しました。その間、日本語の生徒が習いに来るようになりましたが、労働ビザがなかったのでボランティアのような形で教えていました。後に、労動ビザの申請をしましたがなかなか難しく、書類が揃っていても取れませんでした。ところが2000年に法律が変わり、過去に申請して取れなかった人でも、ある条件を満たす場合に限り労働ビザが取れる事になりました。運良くそれに引っかかり今に至っています。
◆マラガ大学 http://www.uma.es/ofertaestudios/iextranjeros.html
学生ビザは一定の書類が揃えば取れますが、労働ビザは正式な労働契約書がないと無理です。私の場合、初めて申請したときは書類が揃っていたにもかかわらず取れませんでした。コネがないと無理とも言われました。年金ビザの場合は書類が揃っていれば(年金の額も大切です)比較的簡単に取れるそうです。しかし全て“Hasta
mañana”(明日考えよう!)の国のこと。速やかに事が運ぶと思ったら大間違い。大きな気持ちでやって下さい。
日本語教師の仕事について教えて下さい。
自宅を塾のようにして教えています。生徒は現在30名ほどです。その中の1人は1月にマドリードで開催された「日本語弁論大会」に優勝して、日本行きのチケットを獲得しました。今年、日本語検定試験の1級を受ける生徒もいるので、先生としては嬉しい限りです。
日本語を習う生徒さんはどんな方ですか?
年齢は、下は15歳から上は66歳までいます。日本語を始めたキッカケとして、日本のマンガを読んでから、性格がどうもスペイン人と合わないから、日本のテクノロジーがすばらしいから…など人それぞれですが、中には前世は日本人だと思うからという人もいました。マンガを日本語で読みたい、日本に行きたい、日本で働きたい、日本人と付き合いたいなどが勉強の目的のようです。
大学機関での日本語教育について教えてください。
マラガ大学には日本語学科はありません。公立の語学学校に日本語学科がありますが、先生は日本人ではなくスペイン国籍を持った台湾人です。こちらの公立学校の先生になるにはスペイン国籍が必要ですが、日本人の場合、たとえスペイン人と結婚してもスペイン籍を取る人はまれです。日本は二重国籍を認めていませんし、日本の国籍が一番強いからです(私もスペイン籍を取る気はありません)。
日本語教育の必要性について教えて下さい。
これからの日本語教育の問題は、いかに習得した能力を現実の仕事や生活に活かすかにかかっていると思います。アンダルシアの場合、若年層の失業率は毎年20%前後です。もし日本語能力があることで何か有意義な仕事につけたとしたら、これに勝る喜びはありません。そのために、生徒には積極的に検定試験や弁論大会に出るように薦めています。生徒も良くこれに応えてくれて、夏の暑いさなかでもクラスに来ます。少しずつですが良い結果が出ていると思います。
マラガの治安はどうですか?
マラガは国際航路の港町ですが、ちょっと田舎のせいか大都会ほど日本人が被害に遭う事はないようです。もちろん日本に比べれば安全な所などないに等しいですが、マドリードで聞くような首しめ強盗などの被害は今のところありません。ケチなひったくりや親切な振りをしたスリまがいはいます。でも、特に日本人を狙った犯行ではありません。私もお金をすられたのはバルセロナでしたし、すられそうになったのはマドリードでした。
スペインで病気になったことはありますか?
こちらにきて5年目に盲腸炎にかかりました。緊急手術をしましたが3日で退院でした。公立のわりには新しくてきれいな病院でした。怖かったのは、手術前に先生から「麻酔のアレルギーは?」と聞かれて「知りません」と答えたら、「はい、わかりました」と言って何の検査もなかった事です。私は「アレルギーがない」と言ったのではなく、「知らない」と言ったんですがね。まあ無事生還していますが。
マラガは住み易いところですか?
旅行者や年金退職者など、お金を使う立場で住むにはとても住み易いところだと思います。気候は温暖ですし、ユーロになって値上がりしたとはいえ、まだまだ他と比べて物価は安いです。日本人に対する人種差別もありません。しかし仕事となると話は別です。時間はスペイン時間だし(もちろん人にもよりますが)、約束破っても悪いとも思っていないし、貸した物は忘れるしなどなど…。ここを乗り越えられるかどうかで永住できるかどうかが決まりそうですね。イライラし出したらきりがないですから。肥満者が多いわりには平均寿命が長いのは、ストレスの有無にあるのでは?と私は思っています。
毎日どのように過ごしていますか?
毎日日本人のように長時間働いていますが、年も年ですので、土日はなるべく休むようにしています。こちらの習慣では、日曜日はよほどの事がない限り、親や兄弟と食事をします。私も一緒に住んでいる彼と、日曜日は彼の両親宅で昼ご飯を食べます。土日に用事があって2週間ほど顔を出さないと、「どうしたの?」と電話がかかってきます。盲腸で入院したときも、手術の次の日には彼の両親から兄弟、いとこ、おばさんと親戚揃いで見舞いに来てくれました。日本人の友達は早く行くと辛いだろうからと日曜日を待っていて、来そびれました。何しろ盲腸炎で手術したのに3日で退院でしたから。
スペイン語の勉強は、今は忙しいのをいい訳にサボっていますから少しも上達しません。でも授業の中で、スペイン語で説明しなければならないことが多いので、その方面の言葉は覚えます。完璧にスペイン語を理解している人がどれ位いらっしゃるか知りませんが、長くいるだけではダメでしょう。やはり努力あるのみです。後は、少し時間に余裕ができたら趣味的な事(陶芸など)をしたいですね。
あなたにとってスペインはどんな国ですか?
初めは、スペイン人は日本人に似ているところがあるのかとも思ったんですが,基本的に違う様です。日本人は自分よりもまず周りの人を気遣って行動しますが,スペイン人はまず自分です。良く言えば個人主義、悪く言えば自己中心。これに慣れるのはかなり大変です。慣れたくはないので抵抗していますが、時々不整脈が出ます。どんなに急ぎの仕事でも祭りがあればそれが先。休みは優先。自分もそれに染まれば楽なんでしょうが、その辺はどちらかと言えば古いタイプの日本人。難しいです。不整脈…耐えます。ただ、いろいろあっても基本的にはやさしい人が多いです。特にお年寄りや小さい子供には親切ですので、日本人の忘れている心を思い出してドキッとしたり、ほんわかとしたりします。
いつまでスペインに住む予定ですか?
時間の流れは、特にこのマラガではゆっくりなんでしょうね。若い時に来たのなら、物足りなくて長くは住まなかったでしょうが。今この年で(54歳)ここにいてリズムが丁度良い具合です。ビザが更新できる限り、こちらにいると思います。
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