エキスポ会場レポート 1
会場の場所と周辺計画
サラゴサ市の西部、エブロ川の蛇行によってちょうど「水の雫」もしくは「涙」のような地形になった地域「ラニージャス」の南部に、エキスポ会場は建設されています。面積は25ヘクタール。
これと並行する形で、北部には120ヘクタールもの面積を誇る「水の公園」を建設中。エキスポ開催に合わせ、サラゴサ市のグリーン・スペースとして無料で開放されることになっています。ここには森林の他、子供用のジャンボ・レクリエーション施設、レストラン、温泉、警察署、宿泊施設、国連支部、祝典パビリオン、人工ビーチ、騎馬場、上船場などが設けられる予定です。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 2
水の塔
地上76メートルの高さを誇る水の塔は、違いなくエキスポ・サラゴサのランドマークタワーとなるでしょう。
エンンリケ・デ・テレサの手によってデザインされた塔は「水の雫」の形をしていて、全体がガラスで覆われています。屋上には大展望テラスが設けられ、また2本の支柱で支えられているビル内部は、全く壁のないオープンスペースとなります。総面積は21,000m2、うち10,000m2がビジター入場可のスペースです。
会期中ここでは「命のための水」と題された大規模な展覧会を開催。アーティストの作品を中心に構成されるこのインスタレーションでは、五感を通して体験できるデザインと新技術によるオーディオビジュアルを心ゆくまで満喫できるはず!
会期後は、地元信用金庫「カハ・インマクラーダ」の「芸術文化センター」として機能する予定です。
上空から見た完成予想図。雫の形をしているのがよく分かります。
地表からの完成予想図。
モダンなガラスの塔からはクールで爽やかな印象を受けます。
7月の工事の様子。この段階では下の方だけガラスがはめ込まれていました。
11月の工事の様子。塔全体がガラスで覆われ、足元に造られた人工運河にも橋が架けられていました。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 3
淡水水族館
「水の光景」と題した展覧会を開催するため、淡水の水族館としては世界最大級のものが造られることになりました。このパビリオンの目的は、「教育」「研究」そして「公表」。
ここには大小50もの水槽が設置され、世界中から300種以上の動植物相が集められます。採集スポットはアフリカのナイル川、南アメリカのアマゾン川、アジアのメコン川、オーストラリアのダーリング川、そしてスペインの(サラゴサを流れる)エブロ川の5河川。
また内部には、5大陸の形成と河との関係について物語る人工河と、世界の始まりを描いた人工池が設けられます。
会期終了後も引き続き水族館として機能し、サラゴサ市を代表する観光スポットになるでしょう。
完成予想図の昼景です。建物の奥の方には人口滝も見えます。
幻想的な完成予想図の夜景。
内部の明かりが点くと白壁全体がぼうっと浮かび上がる仕組みになっています。
7月の工事の様子。会場の中で一番工事の進み具合が早いという水族館。
11月の工事の様子。メイン部は今夏に完成していたとあって、3ヵ月後も外観に大きな変化は見られませんでした。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 4
ブリッジ・パビリオン
その名が示すとおり「橋のパビリオン」!会場に沿って流れるエブロ川に架けられる「橋」が「パビリオン」になるというもので、エキスポ・サラゴサの目玉建築です。建築界のノーベル賞であるPritzker賞を受賞した初の女性建築家Zaha Hadid(イラク出身)が設計を担当。
サラゴサ駅と国際会議場を結ぶ格好で渡されるパビリオンは、全長260メートル、総面積7000m2で、グラジオラスの花のような形をしています。橋を支えるのが両岸の2点と中州の計3点だけということから、中州の支柱はなんと72,5mの深さまで埋め込まれているんです!もちろん、スペインでは初めての画期的な建造物。
エキスポの会期中は、「水、唯一の資源」をテーマに様々な展示が行われます。また会期後は、地元信用金庫「イーベル・カハ」所有の「美術・博物館」として使用される予定。
地表からの完成予想図。橋の中ほどにはオープンエアーのゾーンが設けられます。
上空から見た完成予想図。グラジオラス形になっているのが分かりますね。
パビリオン内部の予想図。自然光がふんだんに入るようデザインされています。
7月の工事の様子。クレーンで吊るされているのが橋の一部。設計上の都合、この橋は地上で組み立てられます。
11月の工事の様子。組み立てた橋を両岸から中央の中洲に向かって押し出しています。写真奥に見える白い長方形の建物はサラゴサ駅。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 5
国際会議場
「ブリッジ・パビリオン」と「国際パビリオン」のちょうど中間に位置する国際会議場は、ニエトとソベハナという2人の建築家の手による作品。横に長くどっしりと地に根を下ろした印象を与えつつも、建物のラインは上ったり下ったりと凸凹に変化する、前衛的なデザインです。
自然光をふんだんに取り入れ、周囲の環境にしっくり馴染むよう配慮されたこの会議場には、1500人収容できる公会堂と大小さまざまな展示ホールが設けられることになっています。
エキスポ会期中は、それぞれのホールに表からダイレクトにアクセスできるという便利な造り。
昼間は太陽光を浴びて透明に輝くこの建物、夜は一転して内側からの光で地表に浮かび上がったように見えるそうです。幻想的ですね。
会期後は、アラゴン州所有の国際会議場として機能する予定です。
完成予想図。
建物の前に設けられる気持ちいいパブリック・スペースとの調和も抜群です。
7月の工事の様子。手前に壁材、奥に見えるのが会議場です。
11月の工事の様子。鉄柱が白く塗装され、壁もだいぶはめ込まれていますね。建物横の黄色いタンクにはセメントが貯蔵されています。搬入トラックによるCO2を少しでも減らすことを目指した良策。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 6
スペイン・パビリオン
開催国の威厳を示すがごとく、スペイン博覧会公社(SEEI)が全力投球して打ちだし、自信を持って公開するプロジェクトがこのスペイン・パビリオン!
今回のエキスポのテーマである「持続性のある発展」をベースに、活動的で近代的で科学的であり、かつ創作的な建物を造ろうという試みです。
設計は、建築家パッチ・マンガドと国立エネルギー再利用センター(CENER)の合作。
彼らが何よりこだわったのは、あくまで「省エネ施設」であり続けようという点です。
ここでは環境に優しく再利用可能なエネルギーを供給できるよう、太陽光と雨水を収集できるシステムが採用されています。
また、このエキセントリックなデザインを代表する無数の柱は、夏は涼しく冬は暖かいという建物内のMicroclima(微気候)を保ってくれるんです!秘密は柱を覆う素焼きの粘土。
総面積8,000m2、地上3階建てのパビリオンは、会期後、サラゴサ市立建築学校として使用される予定です。
完成予想図の昼景。
川側から見たところ。柱を覆っているのは木ではなく素焼き粘土。
完成予想図の夜景。
正面から見たところ。摩訶不思議な建物です。
7月の工事の様子。大よその骨格は完成しています。
11月の工事の様子。上空から見るとスペイン・パビリオンがエブロ川沿いの一等地に建てられているのがよく分かりますね。遠くにピラール大寺院が望めます。
こちらも11月の工事の様子。
建物の川側の柱から徐々に粘土で覆う作業が進んでいます。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 7
アラゴン・パビリオン
アラゴン州は、自治州としては唯一独立したパビリオンで参加します。開催州ですもんね。
モチーフは、この地方の伝統的で典型的なお土産「フルーツ・バスケット」!
リンゴやオレンジ、モモが入っている籠を、そのまま何万倍(??)もの大きさに拡大したというユニークなデザインです。
オラノとメンドという、2人のアラゴン出身建築家が設計しました。
この大きな籠は底部が3本の柱で支えられていて、地上7メートルの高さまで持ち上げられています。
籠の上部はぐるりと大きなテラスで囲まれる予定で、ここからはエキスポ会場、市内、エブロ川など、これまで望めなかった美景が堪能できるんですよ。
アラゴン・パビリオンは会期後、アラゴン州教育委員会の本部として使用されます。
完成予想図。
言われてみると確かにフルーツ・バスケットに見えますが、スゴイ発想ですよね…。
11月の工事の様子。7月に行ったときは支柱を積み上げている状態で、私もアラゴン館だと気づかなかったくらい(だから写真を撮ってなかった…)。ところが11月はもう籠の骨格が完了し、壁も一部はめ込まれていました。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 8
その他のスペイン自治州が入るパビリオン
スペイン自治州パビリオンは、EXPO会場内の東部、ちょうどスペイン・パビリオンとアラゴン・パビリオンの中間に位置します。
ここにはアラゴン州を除くスペイン16の自治州と、アフリカ大陸のスペイン領であるセウタ市とメリージャ市が入居します。当然パビリオンもデッカイ!
この自治州パビリオン、ファサードは1つですが内部1階は18のパビリオン(部屋)に分割されていて、それぞれ通路や回廊で結ばれる仕組みになっています。
2階部の2,200m2のスペースには、各自治州の郷土料理を饗するレストランが造られるんですよ。
今、世界から注目されているスーパー・シェフ達たちの創作料理から、トルティージャやパエジャといった典型的料理まで何でも食べられます!
レストランをはしごしてちょこっとずつ「タペアール」するのも楽しそう!
会期後は、「エンタープライズ・パーク」として機能します。
完成予想図。
このようにファサードは1つに繋がっています。
スペイン・パビリオン側から見た7月の工事の様子。
2階建ての骨格ができています。
国際パビリオンの2階から見た11月の工事の様子。
1階部の壁は完成し、2階部もだいぶ壁が取り付けられていますね。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 9
日本館も入る国際パビリオン
最終的な参加国は102カ国(2007年10月末の受付締め切り時データ)!これらの国々が全て入居する国際パビリオンは、EXPO会場の入り口にほど近い「国際参加者エリア」に設けられます。
その広さたるや61,667m2!!もちろんパビリオン自体の延べ面積は会場一で、トータル8つの巨大建物から構成されるんですよ。
広大な国際パビリオンは、各国の地勢と気候の特徴別に次のように分類されます。
- 島と沿岸
- オアシス
- 温帯森林
- 熱帯雨林
- 山岳
- 地中海
- プレーリー、ステップ、サバンナ
2006年10月に公式参加を表明した「日本館」は、EXPO ZARAGOZA内の最大規模の政府パビリオンとして「島と沿岸」ゾーンに入居します。
自治州パビリオンと同じく、こちらも会期後「エンタープライズ・パーク」として利用される予定。
完成予想図。
日本館は、上部に見える3棟の白い建物のうち向かって右のパビリオンに配置されます。
会場内メインストリート側から見た、7月の工事の様子。
ちょうど日本館が入る辺りです。
国際パビリオンは2階建て。地下には各国のパビリオンの組み立て・解体を容易にするためのロジスティック・スペースが造られています。
こちらもちょうど日本館が入る辺りの11月の工事の様子。
7月の写真とは反対側からのショットです。もう壁ができていますね。アーチもかかっていますがここにはクリスタルが入り、下部にはガーデンが設けられます。
文・写真:松嶋公美
エキスポ会場レポート 10
日本館と山本寛斎氏
日本館は「島と沿岸」ゾーンの一画、会場内のほぼ中央に配され、EXPO会場内でも最大規模の政府パビリオンとして設置されます。
1月に引き渡されたスペースでは今、急ピッチでパビリオンの組み立てが進んでいて5月30日には完成予定です。
展示は大きく分けて4つのゾーンから構成されています。
来館者をドライミストによる涼感でもてなすゾーン「プロローグ」。
ここで来館者は日本館への興味と期待感を膨らませるはず。
「ゾーン1 水とくらし」は、水と共生してきた日本人の伝統的な知恵と技に出会うゾーン。ここでは200年前の日本(!)を、時空を越える船に乗って体験できます。
「ゾーン2 水といのち」は、世界の水をめぐる危機的な現実を意識し、生命にとっての水のかけがえななさを実感するゾーン。特筆すべきはスペシャル・ティの無料配布。この機のためにブレンドされた特別な冷茶が、来館者全員に配られます。
日本館の2階には、スペインでも人気爆発の「日本食レストラン」が設けられます。運営はバルセロナで和食店を5店舗経営するベテラン、Grupo Yamashitaが担当します。
日本館の詳細については、この春、素敵な公式サイトが完成していますので (そのサブタイトルが「サラゴサへ行こう!」だったので2度ビックリ!!) どうぞそちらをご覧ください。一足先に動画で日本館内をのぞいてみたい方にはこんなページもありますよ。
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次に、7月にEXPO ZARAGOZAにてビッグ・イベントを手がける山本寛斎氏が、この春スペインで行った講演会についてリポートしましょう。
日本を代表するファッション・デザイナーとして一世を風靡した寛斎氏、近年はイベント・プロデューサーとしてもご活躍です。「アボルダージュ」や「太陽の船」といった彼が指揮を取るスーパー・ショーについて、皆さんも耳にしたことがあるはず。
2004年日本武道館で行われた「アボルダージュ」にて
7月22日〜24日まで日本館が主催する「ジャパン・ウィーク」では、
「いのちの祝祭」と題した目玉イベントをプロデュースします。
そんな寛斎氏がこの3月半ば、サラゴサとマドリードの2都市に前入りし「日本の美学と人間エネルギー」について熱く語ってくれました。
講演では、氏のキャリアのスタートであるファッション・デザイナーとしての軌跡と、その後イベントプロデューサーとして、モスクワ・赤の広場やベトナム・ハノイ市、インド・ニューデリーなど国内外で大規模イベントを手がけた経験。また、ファッション・デザイナーとして成功するという強い意志、スポンサー集めや会場使用等の許可などの困難を乗り越えてイベントを実現するという強い意志によって、これまで自身の希望を成し遂げてきたこと。そして、「成し遂げたいという強い意志を持って頑張れば必ず結果に繋がる」というメッセージを、それぞれの会場でオーディエンスに伝えました。
実際「成功」を手にしている氏の言葉には、やはり絶大な説得力がありました!
3月10日(19:30〜21:30)、サラゴサ大学にての講演会
3月12日(11:00〜13:00)、マドリード自治大学にての講演会
文:松嶋公美